ビシェノでお世話になっているのは飯利史朗(イーリ)くん。大学時代からの友人だ。
イーリについて
タスマニア・ビシェノの町から車で10分ほどのところに住んでいて、ジジという名前の黒猫を飼っているイーリ。
サーフィンとウクレレが趣味で、アワビ捕りのライセンスを持っている。暖炉の火をおこすのがうまい。ものすごくよく寝る。オーストラリア&カリフォルニアなまり(むかし留学していた)の上手な英語を話す。
仕事は、ビシェノにあるサーフショップのショップスタッフ&ペンギンツアーのガイドをしている。
夜になると浜辺に上がってくる野生のペンギンたちを観光客や地元の人と一緒に観察しながら、ペンギンの生態や環境について話をする、というのがペンギンツアーのガイドのお仕事だ。
人生ってふしぎだ
東京で生まれ育って同じ大学に通っていた彼が、どうしてこんな地球の裏側にひとりでやってきて定住することになったのかを聞いていると、ひとの人生って本当にいろいろだなと思う。
「むかしから田舎に憧れがあって、静かな場所で暮らしたかった」という彼のいまの家は国立公園のとなりにある。
林の中にぽつんと立つ一軒家。敷地の入口から家まで、歩くと15分かかる。敷地の中にはワラビーたちがやまほど暮らしていて、車で通るといつもちりぢりになって逃げていくのが見える。
自分が出せる一番大きい声で歌ってもお隣りさんには聞こえないし、携帯の電波もWi-Fiも通じていないからメールチェックや見たい動画は町に出ている間に済ませるしかない。
庭にて。海と月を見ながらたそがれるジジ(画面右下)
イーリがタスマニアで築いた生活
本人も気に入っているこの家はタスマニアにやって来た当初に見つけたものではない。
最初はワーキングホリデーでやって来て、それからいろいろな仕事を経験し、誰かとルームシェアをしながら何度か引っ越しもした。
いまの仕事にたどり着いて、就労ビザの複雑で厳しい申請もクリアした。
地元になじみ、1人で暮らす十分な余裕もできたところで、自分が理想とする家と親切な大家さんに出会った。
そんな経緯とめぐり合わせがあって、イーリはいま林の中の一軒家を借りてひとり静かに楽しく暮らしている。
人生に迷ったらまずスタートを切る。あとは後から努力する
30近くになって、地球のウラ側の小さな小さな町を「自分が求めていた場所」として見つけ出した彼を私はすごいと思う。
そしてもちろん、見つけたからといってそれで終わりではない。理想はいつも時間とともに現実になっていく。
「地元の人に認めてもらえるように」とわざわざオーストラリアなまりの英語を練習してきたイーリ。仕事や住まいだって、焦らず、コツコツと時間をかけて自分の理想に近づけていった。
私がお邪魔したのは、彼のそんな道のりの上に成り立っている家だった。イーリは気前良くも1室を貸してくれた。キッチンもお風呂も、庭(というより林)も自由に使わせてくれたのだった。
おかげで私はタスマニアで旅行というより生活ができた。大自然と1匹のネコに囲まれて静かな時間を過ごすイーリ先生を見ながら、私はこれからどう暮らそう、とゆっくり考えることができた。
タスマニア産のビールやワインを飲みながら、イーリが話してくれたこと、教えてくれたこともこれからたくさん書けたらいいなと思う。