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(第2話)動物たちの保護施設、パディメロンパークの1日。ビシェノ・ペンギン物語【タスマニア滞在記】

オーストラリア・タスマニア。ビシェノの町はずれにあるパディメロンパーク Padimelon Park。

この場所で、夫婦で力を合わせて動物たちを懸命に生かして自然に還すジェフとヴィッキー に出会った。

わたしはタスマニア滞在中、ここでペンギンたちにエサをあげるお手伝いをさせてもらっていた。

ビシェノ・ペンギン物語【その1はこちら


photo: Gallery_Pademelon Park

パディメロンパークの1日

朝8時。イーリの車に乗せてもらってパディメロンパークに到着。

キッチンのある小屋に入ると、すでに朝の日課を次々とこなしていっているジェフとヴィッキーが「おはよう!」と迎えてくれる。

私とイーリは大きな冷蔵庫に入ったペンギンたちのエサを取り出す。エサは細長くカットされたサバだ。塩分と、食べやすいように水分も足されている。成長に合わせて軽量され、1羽分ずつ小分けにされている。

エサを片手に鳥やカンガルー、ウォンバットたちがくつろぐ園内を通って、ペンギンたちの小屋に向かう。「ごはんだ〜!」と言わんばかりに小屋のドアに一斉に駆け寄ってくるペンギンたち。傷つけないように、そっと開けて中に入る。


photo: Gallery_Pademelon Park

初体験。魚を口に滑り込ませるペンギンの餌やり

ペンギンを1羽ずつ木の切り株に立たせ、慣れた手つきで次から次へと静かにエサやりを終えていくジェフ。

その板についた光景を惚れぼれと見ている私に、「今日はシンもトライしなくちゃ!」とヴィッキー。左手でペンギンをひょいと抱え、右手で1切れずつ魚を滑り込ませていく。

物静かなジェフも、「次はあんたよ」「いい食べっぷりじゃない」と動物にたくさん話しかけるヴィッキーも、手元を見ているとそこに愛情があるのが分かる。

私も同じようにやってみる。

体長30cmほどのフェアリーペンギン。初めて見たときにその小ささに驚いたのだけど、持ち上げてみるとまた異様に軽い。軽いのに、羽をバタバタさせて動き回る。傷つけてしまいそうでとても怖い。

緊張しながら、でも急いで、魚を口の中に入れていく。

ほら食べて。大丈夫だから。いい子だね。

失敗しないようにと祈るような気持ちが、口から言葉になって出ていく。

いま私、タスマニアで、ちいさなペンギンを抱えて、日本語で話しかけてる。


photo: Gallery_Pademelon Park

脆い命が手の上にある

ペンギンたちの脆い体と力強い羽ばたきの手触りが、ビリビリと脳まで響いてくる感じがする。ペンギンってこういう生き物だったのか。つい昨日まで、動物園で見るかわいいだけの生き物だった。

あっちの現実とこっちの現実があっという間に入れ替わってしまったのを感じながら、とりあえず目の前のエサやりに神経を集中させる。

「シン、いい感じ!」 気づくとヴィッキーが横から励ましてくれていた。

魚まみれの充足感

エサをやり終わると、ペンギンたちをしばらくプールで泳がせる。

慌ただしいエサやりが嘘のように、気持ちよさそうに静かに泳ぐペンギンたち。

初めての日は緊張でどっと疲れながらこの光景を見た。


photo: Gallery_Pademelon Park

ペンギンたちを泳がせ終わったら、キッチンのある小屋に戻る。

エサの容器を魚用のスポンジで洗ってきれいに拭くあいだ、ヴィッキーと世間話をする。

ヴィッキーの英語を、私はあまり上手に聞き取れない。ペンギン・ショックでまだぼーっとしている頭のまま、イーリとヴィッキーのやり取りを聞いている。

「ありがとう、良い日を!」とジェフとヴィッキーに挨拶をして、イーリの車に乗り込む。乗ったとたん、自分が手も服も、生魚の破片まみれでかなり臭いことに気づく。

時刻はまだ朝の8:30。

「今日もうこれで終わってもいいような気分」と助手席でつぶやいたら、イーリは「まぁそうだよね」とかなんとか言いながら笑っていた。

前回のお話)(次話につづく