タスマニア・ビシェノの町はずれにあるパディメロンパーク Pademelon Park 。
ここではたくさんの「ワケあり」の野生動物たちが保護されている。
親を亡くしたもの。怪我したもの。人にイタズラされたもの。
それぞれ成長を助けてもらったり、傷を癒やしたりしたら、また自然の中に返される。
ここで保護されているペンギンたちも同様、準備ができたら海に返されることになっている。
保護が終わるとき。ペンギンが海に帰れる3つの条件
ペンギンたちが海に帰れる「準備完了」の条件は3つ。
それは、
十分な体重になっていること
羽が防水になっていること
人を避けるようになっていること
早朝。まだ辺りが暗い中、海に帰っていくペンギンたち
個体ごとの特徴もそれぞれ違う
多いときには20羽ほどいて、どれも全く同じに見えていたペンギンたちも、日々エサをあげていると「この子はよく食べる」「この子は羽の色がちょっと違う」「この子は片足が不自由」「この子はよく太ってる」「この子は痩せてる」とか、うっすらと特徴が見えてくる。
中にはまだ子どもの毛のものもいて、頭の上から肩にかけて茶色のふわふわの毛が残っている。ふわふわちゃんと呼んで可愛がっていた。…元気かな、元ふわふわちゃん。
イーリとふわふわちゃん。後ろは先日の日記でも紹介した保育器
成長、回復のスピードもちがう
個体によって体重の増え方もいろいろだ。
同じ量をあげていても、他のペンギンのエサまで欲しがるものもいれば、食べている途中で「もう食べたくない」と首を振るものもいる。
私がお手伝いを始めた3月初旬には、ペンギンたち(保護されていたのはフェアリーペンギン)は500gあるかないかくらいだったと思う。
始めの頃は1食50~60gだったエサは、4月半ばには100g以上にもなった。
海に返す前に体重測定をしてみたら、卒業組は700g〜800gに増えていた。
野生の成人?ペンギンは1kgを超えるという。海に戻ったペンギンたちがどんな風に魚を取って生きていくのか、そこまで見守ることはできない。でも痩せた体で送り出すよりは、確実に死のリスクは低くなる。
残留組は、第1陣を見送ってさみしくなった檻で、しばらくまた体重増加合宿をすることになる。
ちょっとさみしそうな居残り組。2羽だけになっちゃったね…
成長するほどお世話が大変なペンギン保護
大人に近づくにつれて、ペンギンたちは段々と人の手からエサをもらうのを怖がり、嫌がるようになる。「エサなんか要らん! 今すぐここから出せ〜!」嫌がるペンギンたちを見ながら、ヴィッキーがよくアテレコしていた。
野生がしっかり身についている証拠だから、これは喜んでいいことだ。
「オレに構うなよ」モード photo: Gallery_Pademelon Park
ただ、こういう「イヤイヤ」が激しいペンギンにエサをあげるのは大変な作業だった。そもそも捕まえにくいし、魚を1切れ食べさせるたび、くちばしをこじ開けて押し込まなくてはいけない。
野生の動物は人から受けるストレスにとても弱いから、接触している時間をできるだけ短くしなくてはいけない。もちろんナデナデなんてしない。
体重測定当日。暴れまわるペンギンと作業を急ぐヴィッキー
かわいいお尻に隠れたペンギンの防水の秘密
ジェフとヴィッキーはペンギン小屋の中に流れるプールを作っていて、ペンギンたちは食事のあと、しばらくプールで泳ぐのが日課だ。
「シン、見て。水の上で高く浮いてるのと、沈んでるのがいるでしょ」
「うん」
「高く浮いてるのは、羽がウォータープルーフになってるってこと。沈んでるのは、まだ羽の準備ができてないの」
…ほ〜! なるほど!!
ペンギンたちは泳ぎながら、クルッ、クルッと体を何度も回転させる。
聞いてみると実はこれがウォータープルーフ(防水)のヒミツで、ペンギンたちはお尻の近くから出ている特殊な油を、くちばしですくい取って自分の毛に塗り込んでいる。その作業がこの動作なのだそうだ。
毛に塗られたこの油のおかげで、ペンギンたちは水に浮きながら泳ぐことができているのだった。
あっという間の出来事で、私の目にはただ回転しているだけにしか見えなかった。
次に気持ちよさそうに泳いでいるペンギンを見たら、「クルッ」の瞬間、見てみてください。
(次話につづく)