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(第6話)環境問題に対する自分の理想を持とう。ビシェノ・ペンギン物語【タスマニア滞在記】

前回までのおはなしはこちら

ペンギンたちのお話のついでに、今日はタスマニアならではの野生動物たちに関するお話をすこし。

じつはイーリは、ペンギンツアーのガイドというの仕事の他に、ポッサムの毛を剥ぐという仕事もかけ持ちしている。

もう2,3年も続けている仕事で、となり町に住む猟師のボスのもとで週に1回、3~5時間ほど作業をする。

イーリが猟をすることはない。ポッサムの毛の部分を専用の機械で剥ぎ、からだと毛に分けて箱詰めする、という仕事内容だ。


photo: NSW National Parks and Wildlife Service

動物を犠牲にすることと守ること

最初はタスマニアに移住してきて、この土地で生きていくために見つけた仕事だった。家族ぐるみで親しいボスと、淡々とこなすこの肉体労働を、イーリはいま気に入っている。

「ペンギンを守ろうとしてる一方で、ポッサムの毛を剥いでお金もらってるって、何かちょっとあれだよね」

ペンギンにエサをあげた帰り道。仕事が終わった後の家のソファで。仕事のために隣り町に向かう車の中で、わたしたちは何度かこの話をした。

イーリはむかし、ジェフとヴィッキー夫婦に、内心緊張しながらその仕事について打ち明けたことも話してくれた。そのとき2人は、「あなたがやらなくても誰かがやる仕事だよ」と理解してくれたのだという。

ポッサムの身体や毛の使われ方

猟師という職業は、タスマニアでは珍しいものではない。カンガルーやワラビーの肉もあちこちのレストランで食せるし、スーパーでも買える。

イーリの職場で毛を剥がれたポッサムたちの毛のほうは、民間業者に買いとられ、加工されて防寒具などになる。ウールに混ぜて帽子や靴下を作るととても暖かいのだそうだ。

身体の方は、国や地方自治体管理の公共機関に買い取られている。

それが実際にむかうのは野生動物公園などの動物保護施設だ。タスマニアにしか生息していない絶滅危惧種の腐肉食(動物の死体をたべる)動物、Tasmanian Devil タスマニアデビルやSpotted Quoll フクロネコを飼育するためののエサになる。

何かの動物の死が、他の動物の命を支えていることになる。


タスマニアデビル

フクロネコ (photo: OzAnimals

人として、自然への影響と自分の理想を考える

動物の増減に人の生活が密接に関わっている以上、人が意志を持ってその数の調整に介入してしまうことは避けられないことだと思う。

「動物を守りましょう」というひと言はシンプルだけれど、誰かに向けて簡単に使える言葉ではない。そして、どの動物は守るべきで、どの動物は適正量まで減らすべきだという絶対的な正しさというのもない。

ただ、「自分はこうあってほしいと思っている」という理想を持つことは大切だし、一人一人のその意志は環境にとって必要なものだとわたしは思う。

さらに「こういう理想のもとにこう行動する」という行動規範まで個人が持っていたなら、自然環境は今よりずっと守られるはずだ

ジェフとヴィッキーは、自分たちにとってのそんな理想への道のりを、現実の中で折り合いをつけながら進んでいる人たちだった。

自分の姿勢を誰かに押し付けることなく、誰にも同じ考え方を無理強いもせず、ただ行動するのみで、それを誇ったり奢ったりもしない。

ジェフとヴィッキーから教えてもらったそういう姿勢の素敵さを言葉にしてみたくて、今これを書いている。


photo: Gallery_Pademelon Park

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