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(第7話)野生動物は不調を見せない。ビシェノ・ペンギン物語【タスマニア滞在記】

タスマニアの東、ビシェノ Bichenoの町外れにある動物保護施設パディメロンパーク。ここで出会った夫婦と動物たちのお話を書いています。

前回までのおはなしはこちら

このところ風邪で具合の悪かったジェフがとうとう肺炎になってしまった。

調子をくずした最初の方はそれでも少し仕事を減らしていただけだったけれど、とうとう完全に安静にしなくてはいけない状態になってしまった。

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photo: Gallery_Pademelon Park

病気をしても休めない動物保護の仕事

お手伝いの女の子が来てくれる頻度も増えたみたいだけれど、それでもほとんど2人分の仕事をヴィッキー1人でこなさなくてはいけない日々が続く。

仕事の合間を見つけて、ジェフを連れて病院にも行っているようだった。

最初のうちはヴィッキーも「明日までに回復しなかったら私が殺してやる!」なんてふざけていたけど、日を重ねるごとにどんどん疲れていくのがはっきり分かる。「ジェフは調子どう?」と聞くのも申し訳ないくらいだ。

ジェフが病気のあいだペンギンたちは次第と海に帰る準備ができていって、私たちは卒業試験をパスしたペンギンたちを海に放しにいった(これは次の日記で書こうと思う)。

最初のうちは20羽ほどいたペンギンたちの数もぐっと少なくなった。

私たちはエサ用の魚のさばき方も教えてもらって、朝から魚をさばいて計量して、塩をふってペンギンたちにあげにいくようになっていた。

一瞬で死がやってくる。動物の命は脆い

ある日私たちがエサ用の魚を捌いていたとき。

部屋で別の作業をしていたヴィッキーと世間話をしていた。よく晴れた気持ちの良い朝だ。

…会話の途中で、ヴィッキーが突然ドアを開けて外に飛びだしていった。

手元をとめて目で追うと、ヴィッキーはすぐ近くにある鳥のケージに入って1羽の鳥をつれて出てきた。鳥を手でつかみ、逆さにしてぶんぶん振っている。目を覗き込んだり、口から息を吹き込んだりしている。

しばらくして、ぐったりした鳥を手に小屋に戻ってきた。鳥は飲み水の中に溺れて死んでしまったのだった。助からなかった。

「くそ…」と悔しそうに肩を落として、ヴィッキーは何度もつぶやいていた。もう少し早かったら間に合ったかもしれないのに、と。

鳥が水に溺れるなんて、そんなことがあるのかと私は驚いていた。一連のできごとの予測のつかなさに面食らって言葉が出てこなかった。

走っている車に頭をぶつけたところを助けられた鳥で、これまで3ヶ月のあいだ面倒を見てきたのだそうだった。 普通鳥が水に溺れるなんてことはないのだけれど、頭を打った影響なのだと思う、と話してくれた。緑色の、きれいな羽をした鳥だった。


photo: Gallery_Pademelon Park

「死んでしまうのは一瞬なのよ。そういう運命だったのかもしれない」という言葉が頭のなかに残った。そしてヴィッキーはそういう一瞬を食い止めようと、いつも気を張って動物たちを観察しているのだった。

「不調を見せない」という野生動物の習性

野生動物は自然の中で生き抜くために、「弱い姿を見せない」ことが本能として備わっているのだそうだ。弱っているのが分かると、命を狙われやすくなってしまう。

だから毎日見ていても、この個体は弱ってるな…と見て取れることはあまりない。前日まで元気そうに見えていたペンギンも、次の日に小屋に行ってみると倒れて死んでいたりする。

そして、それでも不調そうに見える個体は「なんでもないふりをする」ことも出来なくなっているほど、死に近づいているということになる。

エサを食べさせてみるとある日急に食が進まなくなっていたりするのもいて、そういう時は次回のエサやりに行くのが少し怖かった。

動物って、強くて弱い。これもパディメロンパークで学んだことの一つだった。


photo: Pademelon Park HP

前回までのおはなしはこちら) (最終話につづく